◆昔1巻ごと買い足していった芥川全集は、筑摩書房の廉価版だった。二〇歳代の初めだったろうか。昨日読んだ「芋粥」には思い出があって、江口渙だったか誰かが<チェッまた的□をつかいやがった>と、久米正雄が言ったとかどうとか・・そんな評を読んだ記憶がある。 ◆「芋粥」には、主人公の<五位の某>を連れた利仁が、三井寺のあたりで、鞭を挙げて遠くの空を指さす。「その鞭の下には的□として午後の日を受けた近江の湖が光っている」と芥川が書いている。その後「或日の大石内蔵助」でも、主人公の大石が独り縁側の柱に寄りかかって、古庭に「的□たる花をつけたのを眺めていた」と、ここでも<的□>を使っている。 ◆的□とは<あざやかな形>といった意味らしく、江口渙によると、芥川はこの言葉が好きでときどき話の中でも使っていたようだが、今回岩波書店版の全集で「芋粥」を読み、新たな知見を得ることができた−今頃になってやっとだが。 ◆的□は、夏目漱石へのオマージュだったのだ!「虞美人草」の中で漱石は、<的□と近江の湖が光った>と書いてるようで、芥川はこれをなぞったと言える。芥川にとって「芋粥」は、漱石の推薦で実現した一流文芸誌への初舞台であり、芥川らしい漱石への挨拶とも・・・・(ふ〜む、そうだったか!) *<てきれき> 的・□=(白+楽) |