冬の若クマタカ

   
   
   
   ▼2022年の2月2日、北部山間地帯の国道を走行中のこと、低い山の尾根に立つ送電鉄塔に
 鳥影を見る。道路脇のスペースに車を止めて観察すると、これがクマタカの成鳥。しきりと
 ピーピー鳴き声を発して、しかも辺り構わずといった風で、鳴き止む気配もない。しばらく
 この状態が続いた後、鉄塔を離れて旋回上昇を繰り返して東北方へ帆翔して去った。
 ▼その6日後、たまたまその付近の川で水鳥を捜していて、ふと目を移した山斜面の喬木に、
 小さいがよく目につく白色の鳥影を見た。双眼鏡で確認するとクマタカの若鳥だった。冬期
 -とりわけ12月から1・2月にかけて、夏に巣立ったクマタカの雛が、成長とともに飛翔力を
 つけてくるものの、未熟なために営巣木のある奥山から、山を下って人家近くの里山まで降
 りてくることがある。この若鳥を見て、6日前の親の行動が了解できた。広い斜面のどこか
 にいる子どもに向けて、必死でコンタクトを取っていたのだろう。
 ▼巣立って半年余り、いくらか飛べるようにはなっても、自力で獲物を捕捉することはまだ
 まだ。このため親鳥は若鳥の移動に合わせ、場所の近くに獲物を置いてやるのだという。
 またカラスやトビなどの攻撃にも、親は注意を怠らないとも。2月2日の親クマタカの異様
 とも言える鳴き声は、「今どこにいるの?」との問いかけだったか、「獲物をここに置いた
 よ!」という知らせだったか、あるいは何か危険な兆候を察知しての「警戒警報!」だった
 かもしれない。
 ▼その後の若クマタカは,、2月を過ぎ3月を経て4月上旬までその山の斜面を主に、斜面に切
 れ込んだ谷奥の高山とを行き来しながら過ごし、だんだんと正確な飛翔力を着けていったよ
 うだった。山の斜面に当る気流を巧くとらえて、旋回を繰り返して高く上昇して尾根を越え
 る勇姿も、一度見たことがある。二ヶ月余り、時おり観察できた若クマタカだったが、姿を
 確認できたのは4月7日が最後だった。